二〇〇年の伝統と技を積み重ねた杵屋の財産
自家製餡の秘密

創業当初から
こだわりの自家製餡
杵屋の菓子の決め手は、まず自家製餡があげられます。かつて赤いダイヤと呼ばれた小豆は、和菓子づくりにおいてもっとも基本の材料です。
いまでは日本全国で栽培されていますが、なんといっても北海道が品質・収量ともに安定した供給地となっています。平成十年からは、北海道十勝の生産者を限定した小豆を使用。より良質の材料を確保することで、菓子そのもののクオリティを高めています。
とくに自家製餡は、製餡の手間のかかり方はもちろん、排水処理など大規模な工場設備が必要となります。

しかしながら、二〇〇年の歴史のなか、屋号でもある「一●」(イチボシマーク) を掲げる杵屋にとって、まさに餡づくりこそが菓子づくりの原点として、この変化の著しい時代にあっても尊ばれ、もっとも重要な作業として創業当初から受け継がれてきています。
ふるさと山形の大河最上川から発想を得た「最上小石」、道明寺やうぐいす餅等の朝生菓子の粒餡には、北海道大納言を使用。どら焼の粒餡には、北海道十勝産生産者限定ミネラル小豆を使用。こし餡には北海道産小豆、白餡には北海道産白いんげん豆(絹手亡)を使うなど、菓子に合わせてセレクトし、風味を調整しています。

さらに餡づくりに欠かせないのが砂糖です。日本に初めて砂糖が伝えられるのは、唐招提寺を建立したことで知られる鑑真和尚によるもので八世紀頃とわれています。かつて貴重品として尊ばれた砂糖は、菓子づくりに欠かせないものとなっています。高い高精度で真っ白な白砂糖の「上白糖」、サトウキビの搾り汁を煮詰め、濃厚な香りと個性的な味わいをもつ「黒砂糖」「白ざらめ」「グラニュー糖」「粉砂糖」等、和菓子や洋菓子等多品種を扱う杵屋にとって、使用する砂糖の種類は実にさまざま。その選択や調合によって、菓子の個性を際立たせています。

また、餡づくりにあたる「餡炊き」は、まさに菓子づくりにおける手技の集大成となります。「餡炊きの数値による管理が進んできていますが、最後の仕上げは結局は職人の勘ですね」と語るのは、杵屋で約半世紀近く菓子づくりに携わってきた山口製造部長の言葉です。杵屋で、餡炊きは五年目からの仕事となり。毎日使っては洗い、丁寧に磨きこむことで存在感をもつ銅鍋に入った小豆を炊き込んでいると、ふわっとした小豆独特の香りが立ち上り、なんともいえない艶と照りが出てきます。そうして最終の仕上げへと、餡づくりは最高潮に達します。
最終的な飴の固さを決めるのは、菓子職人が長年培ってきた勘によるもの。その磨かれた手技こそが杵屋の財産です。たゆまぬ毎日の努力が二〇〇年の伝統を積み重ねてきたのです。
